(週刊朝日2021年10月29日号より)
(週刊朝日2021年10月29日号より)

 高齢者への自宅売却の勧誘については、国土交通省や消費者庁も注意を呼びかけている。自宅の売却ではクーリングオフができない。国民生活センターなどは、一人で対応せず、わからないこと、望まない内容には契約せず、きっぱり断るようアドバイスしている。

 クーリングオフとは、訪問販売や電話勧誘などのように、突然に契約を迫られて応じた場合、一定の期間内なら、契約を解約できる制度。不動産のクーリングオフは宅建業法で、業者側が売り主の場合のみを定めており、消費者が売り主となる場合は適用がない。また、貴金属などの訪問販売のクーリングオフについて定める特定商品取引法は、物品を売る場合には適用があるが、不動産の売買は対象外となっている。

 一方、宅建業法では、不確実な将来利益の断定的な判断を提供する行為や、威迫する行為、私生活などの平穏を害するような方法で困惑させる行為を禁止している。冒頭の高齢女性たちのケースは、いずれかに該当しそうにもみえる。しかし、突然の訪問・勧誘を受けた高齢者が、音声の録音などをしていない限り、これらに該当すると立証するのは難しそうだ。

◆元気なうちから検討しておく

 トラブルの背景には、高齢者の自宅をめぐるさまざまな問題がある。

 そもそも、高齢者が一人暮らしとなると、ずっと自宅に住み続けられなくなることがある。老人ホームや介護施設に入所すると、自宅は空き家になる。あるいは老後の生活資金のため、自宅を処分したり、ほかに移って自宅を貸し出すなど、資金の捻出を迫られることもある。さらに、相続人がいなかったり、いても親族同士が相続でもめることがある。高齢者が所有権を持ったまま認知症になると、本人が亡くなるまで、親族などの相続予定者は大規模修繕や売却といった処分ができなくなる──。

 こうした問題を子どもや親族と早めに解決しておかないと、前述のような想定外のトラブルに巻き込まれることになる。

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