もちろん、だからといって世界的なスターになることは簡単ではない。上述した韓国芸能担当記者は「BTSは、世界の時代の流れにうまく乗った」と語る。この記者によれば、米ビルボードで2017年ごろ、ラテンポップが大きく躍進した。BTSの曲もラテンポップの要素が取り入れられているという。記者は「BTSの曲は良く言えば洗練されているが、やや難しいとも言える。でも、世界で好まれる音楽の流れをうまく取り入れたことが、世界的なスターになる契機になった」と語る。BTSはソーシャルメディアもうまく使いこなした。メンバーが撮影した写真を投稿することで、ファンとの距離を縮めた。
では、日本からBTSのようなスターは誕生するだろうか。
上述の記者は「日本は内需市場が強い。韓国の芸能関係者は皆、日本をうらやましがっている」と語る。
ただ、OECDによれば、2020年の日本人の実質平均年収は3万8515ドル(約450万円)。米国の6万9392ドル(約780万円)はもちろん、韓国の4万1960ドル(約470万円)にも及ばない。最近では、国際機関に出向すると給与が上がるとして喜ぶ日本政府関係者も少なくない。
岸田文雄首相は10月8日の所信表明演説で「新しい資本主義の実現」を目指すとし、「大切なのは、成長と分配の好循環です」と語った。だが、政府関係者の間からは「世界のどの国も実現できていない。単なる理念だけで終わりはしないか」と危ぶむ声が起きている。日本が経済的に行き詰まれば、米国への移民がブームだった1980年代の韓国と同じような状況が生まれるかもしれない。(朝日新聞記者・牧野愛博)
※AERA 2021年10月25日号より抜粋