国民主権の国家だが、天皇、皇族という例外的な身分制度がある。この制度をどう見るか。また、皇族の人権をどう考えるか。AERA 2021年11月1日号で、歴史学者の河西秀哉さんと憲法学者の木村草太さんが議論した。
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河西:戦後史をテーマにしていますが、天皇、皇族の意思を国民がどう受け入れるかは難しい問題だと思っています。天皇、皇族の個人の権利は、憲法学からどう捉えられますか?
木村:一般的な見解では、天皇・皇族は憲法上の権利の保障対象ではありません。長谷部恭男先生は「身分制の飛び地」と表現します。憲法自身が、平等権をはじめとした近代的な人権保障規定を適用しない例外的な身分制を定めているということですね。
人権は保障されるけど、天皇の地位に伴う限界があるとの説もありますが、その説でもほぼすべての権利が制限されます。
河西:秋篠宮さまは眞子さまの結婚を「認めるということ」と記者会見で言った時、憲法の「婚姻の自由」を持ち出しましたが。
木村:皇族の婚姻には、憲法24条は適用されません。だから、男性皇族の婚姻に皇室会議の議を要求した皇室典範は違憲ではないのです。現状、女性皇族には婚姻の自由がありますが、それは憲法上の権利ではなく、皇室典範がそう定めているからです。女性に皇位継承資格を認めれば、婚姻の自由が制約されるかもしれませんが、それは憲法24条違反ではないでしょう。
河西:その意味では、秋篠宮さまの言葉は、正確ではないということになりますね。
木村:親心として娘に「婚姻の自由がある」と言いたい気持ちはわかりますが、日本国憲法下の天皇制と考えると、あまり一般的な見解ではないと思います。
■退位の手続きの必要性
河西:天皇、皇族たちが我慢を強いられていることを顕在化させたのは2016年、天皇(現在の上皇陛下)が退位の意向を強くにじませたビデオメッセージだったと思います。
木村:憲法解釈の世界では、以前から退位の手続きの必要性は指摘されていました。気づいている人はいたけれど、広がっていなかったのだと思います。