TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は早稲田大学国際文学館の開館について。
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コロンビア大学の学園紛争をテーマにしたアメリカンニューシネマ『いちご白書』に描かれた学生集会のようだった。
早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)開館に先立つ記者会見には、書斎に座って頬杖をつく猫のイラストの村上Tシャツや、春樹さんを何年も追っているというアメリカ人映像作家(ジーンズに長髪のヒッピー風)も集まり、なんだかとても自由な雰囲気だった。
そこに春樹さんが「こんにちは」と現れ、開口一番、「当時は『大学解体』というスローガンで戦ったわけだけど、結局こっちが解体されちゃった。『自由な大学を』の理想は間違ってなかったけど、やり方がまずかった。この村上ライブラリーは学生たちがアイデアを出し合い、自由でフレッシュなスポットになるといいなと思います」
村上ライブラリーは69年に建てられた、演劇博物館斜め向かいの建物を隈研吾さんがリノベートしたものだ。52年前の7月、学生に占拠されていた旧4号館地下ホールで山下洋輔さんがジャズライブをやった。大隈講堂からピアノを担いできたひとりが中上健次さん(中上さんは早稲田の学生ではなかった!)。セクトを超えて民青、革マル、黒ヘル、中核がその演奏に聴き入ったと伝えられている。春樹さんは、当時のように「山下さんにまたガンガン弾いてほしい」とエールを送った。
世界で1千万部以上読まれている恋愛小説『ノルウェイの森』は、春樹さんが在籍中だった早大を舞台にしている。彼がどう過ごしたか、多くの記者が身を乗り出した。
「『都の西北』って野球の応援歌ですかって田中(愛治)総長に聞いたら校歌ですって(笑)。あ、そうなんだって。でも、早稲田は良い学生ではなくても受け入れてくれるところがあり、割に気が楽だったです」