藤井聡太が竜王戦七番勝負第2局で、AIが示す「藤井曲線」通りに完勝した。難敵・豊島将之竜王に通算の対戦成績で初めてリード。史上最年少四冠へまた一歩近づいた。AERA 2021年11月8日号の記事を紹介する。
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「最後までけっこうきわどいところが多いかと思っていました」
10月22、23日の竜王戦七番勝負第2局が終わったあと、勝者の藤井聡太三冠(19)はいつものように冷静に一局を振り返った。
将棋は勝ち切るまでが本当に大変なゲームだ。それも豊島将之竜王(31)のように、強敵中の強敵が相手ならば、なおさらである。プレーヤーの実感として「最後まできわどかった」というのは、うそ偽りのない本音なのかもしれない。
しかしコンピューター将棋ソフト(AI)が形勢差として示す「評価値」は、1日目途中から2日目の終局に至るまで、終始藤井が豊島を圧倒していた。
俗に「藤井曲線」という言葉がある。評価値をグラフにすると、最初は少しずつ、次第に大きく藤井よしで推移して、最後は完全に藤井の側に振れる。そうした藤井完勝を表すグラフの形状がすなわち藤井曲線だ。多くの観戦者にとっては、本局もまた藤井曲線が示す通りの完勝劇に見えただろう。
先手番の豊島は、ここ最近両者の間でずっと戦われている相掛かりを選んだ。互いに攻めの主軸である飛車先の歩を進めていく、古くからある戦型だ。しかし現代では過去とは比較にならぬほど、よりスピーディーに盤上全体で戦いが起こる。深い事前研究なしには指せない。
■豊島の新構想にも対応
豊島は早めに中段に角を上がる新構想を見せた。中段に構える藤井の飛車を安定させない意図だ。さすがの藤井も想定外だったかもしれない。しかしさほど時間を使わずに対応策を示す。
「そこで長考しているようでは、ちょっとなんかよくなかったな、と思いました」(豊島)
豊島は想定内の進行であれば、時間は使わず飛ばしていく。時間の使い方も勝負の大きな要素である以上、それが合理的だ。しかし豊島は早い段階で、2時間近い長考を強いられた。