さらには、「Arc Publishing(アーク・パブリッシング)」と呼ばれる独自のシステム・プラットフォームを開発し、ワシントン・ポストはこれまでの伝統的な新聞社から、最先端を行くテクノロジー企業として変化を遂げていった。
◆ベゾス氏の方針転換でデジタル市場拡大
同紙は非上場企業なので収益などの詳しい情報を公開していないが、米メディアの報道によると買収前の2012年には約54億円(5400万ドル)の赤字を出していたが、2016年には黒字に転換。翌年の2017年には、デジタル版の有料サブスク数が初めて100万人の大台に乗る。
オーナーのベゾス氏は2016年に行った講演で、ワシントン・ポストの経営戦略の転換について触れ、「少数の読者から比較的高額の購読料を取って来たこれまでのやり方から、少額の料金でより多くの読者から購読収入を得る方針に我々は切り替えなければならない」と語った。
現在デジタル版の購読者数は300万人以上と見られているが、前述のリベロ氏は具体的な収益額は言えないものの、「(広告とサブスクを合わせた)現在のデジタル側からの収入は、紙媒体を大幅に上回っています」と明かした。
70年代に当時のニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」で、一躍その名を世界中に知らしめることとなったワシントン・ポストであるが、そもそも同紙はアメリカにおける一地方紙でしかなく、紙面発行部数も買収前の2013年前半には45万部(平日版の平均部数)しかなく、さらに現在では23万部まで激減している。
また、首都圏以外では紙のワシントン・ポストの購入が出来るのは数少ない大都市に限られていて、ここニューヨークにおいても、見つけるのは至難の業だ。
しかし、デジタル化は新たな市場のチャンスを与えた。
ポインター研究所のエドモンズ氏によると、デジタル化によりこれまで地元の読者を中心にターゲットにして来たものが、全米、さらに海外の読者まで届くようになった。特に米政治の中心であるワシントンからの情報発信は海外でも需要があり、さらに同紙は英語媒体なのでアメリカ国内以外でも読者を得やすいという利点がある。
月間サイト訪問者数(ユニーク・ビジター数)を見てみると、ベゾス氏が同紙を買収した2013年10月には2580万であったのに対し、2021年8月にはその約3倍の7900万に拡大している。