デジタル化により、ワシントン・ポストは一地方紙から、全国紙、そしてグローバル紙へと変貌を遂げて行ったのである。
同紙がデジタル版「WashingtonPost.com」を開始したのは1996年であるが、その際には他の新聞社と同様に記事などの閲覧は無料であった。
「デジタル版は利益にならない」というのが当時のメディア業界での認識であり、紙面の広告や販売からの収入がその運営に当てられていた。
しかし、広告収入の減少や販売部数の低迷を受けて、ベゾス氏が買収する直前の2013年6月にワシントン・ポストは、デジタル版の有料化に踏み切った。
現在、基本デジタル購読料は月額10ドル(約1100円)、年額100ドル(約11000円)である。さらに、紙媒体の購読者はデジタル版にも無料でアクセスすることができる(日曜版を除く紙面購読料は、年額764ドル=約8万7000円)。
エドモンズ氏は、これまで無料で提供してきた記事などのコンテンツ有料化へのプロセスは、非常に難しい問題であり、対価に見合うだけの「質の高いジャーナリズム」を提供することが求められるという。
しかし一方で、現在はスマホのアプリやネットフリックスなどの動画配信サービス、スポティファイなどの音声配信サービスなどのサブスク文化に人々が慣れ親しんでいるため、特に若い読者たちはニュースの有料化にも、それほど抵抗感を抱かなくなっているのではないかと語る。
◆生き残りをかけた新聞のDX競争
ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズのようにデジタル化で経営に成功しているメディアは、全米でも少数の新聞に限られるとしながらも、それらに共通することは、技術的なインフラや人材に投資できる資金力がある事とエドモンズ氏は指摘する。
もう一つは、読者がお金を払ってでも読みたいと思えるようなクオリティーの高い「ジャーナリズムの力」を持っている事だと同氏は語る。ワシントン・ポストのリベロ氏も、質の高いジャーナリズムを手軽に、なおかつ楽しんでもらえるように、読者に提供することが必要不可欠であると強調する。
米メディア業界も未だに成功するビジネス・モデルが見いだせないまま、模索を続けている。エドモンズ氏は自身が生きている間に紙の新聞がなくなることは無いだろうが、20年後にはメディアの形がどうなっているか分からないと語った。
しかし、今一つ言えることはデジタル化に乗り遅れたメディアには将来は無いということであろう。今後、生き残りをかけてメディアによるデジタル競争がさらに激化していく。(新垣謙太郎)
※明日は米国の老舗誌「ニューヨーカー」のDX
◆あらがき・けんたろう ニューヨーク在住ジャーナリスト。首都ワシントンの大学を卒業後、現地NGOジャーナリスト国際センターに勤務。その後テレビ局での経験を経て現在フリージャーナリストとして活動中。