■みんな愛の価値は違う
──そんな廣木と豊川との関係は、寺島にとって特別なものだ。
寺島:廣木監督の出来上がった映画を観ると、すごくセンスを感じます。今回も久々に、「素敵な映画を作ってくれてありがとうございました」と思いました。そんな監督と「ヴァイブレータ」で出会い、「やわらかい生活」にも出演できて、今回もまた監督と組むことができました。相手役も豊川さん。何かこう、自分が生きてる間にそういう監督と、心がわかり合える役者さんと芝居ができる幸せを感じると、ちょっと涙が出てきます。役者さんはたくさんいますが、自分と合う役者さんは、そんなにいるものではありません。豊川さんとは価値観が似ているのかな。(演技の)間の感覚が合うのかな。普段そんなことを二人で話したことがないからわからないですけど、これからも大切にしたいなと思います。
──男と女の情愛の不思議さについて考えさせられる本作。三人の関係を「理解するのか理解しないのか、客観的に見るのか入り込んで見るのか、いろんな見方があると思う」と寺島は言う。
寺島:黒か白かで判断がつけば簡単なことは山ほどあります。でも、恋愛はそうではない。それをグレーというのは日本の美学だと思うんです。男と女の間って、他人はどうだっていいんですよ。そもそも不倫って、「うちの夫は不倫しています。でも私が許してるんで大丈夫なんです、この家は」と言うなら誰も何も言わないわけでしょ。他の人がつべこべ言うものではないんです。愛は誰にもジャッジできない。だってみんな愛の価値は違うんだから。この映画に出演して余計そう思いました。ただ、この三人の関係は理解できないところはあります。私は三人一緒の墓地で眠るなんて、絶対嫌だわ(笑)。
(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2022年11月14日号