このポリアモリーとは、20世紀になって欧米で市民権を得た概念で、ノンモノガミー(排他的な一夫一妻制ではない関係)の一種と定義される。ポリアモリーには、関係者全員が合意に基づき、多重的な性愛関係やロマンチックな関係を認めるという条件がある。

 古代は知らず、キリスト教倫理の支配した欧米では不倫はあってもこのような愛の形は長く受け入れられなかった。仏教や儒教、イスラム教でも一夫多妻のハーレムはあっても自由な多重恋愛は絶対的な禁忌であった。

 非常に興味深いことは、摂関時代から院政期を経て、武家が権力を独占するまでの数百年は、少なくとも日本の貴族社会ではこのような愛の姿を受け入れる土壌があったのだろう。

■宮廷恋愛は書物の中だけに

 この後、権力を握った武士は家と領地を死守するためのポリガミーを基本とし、庶民は経済的理由もあってモノガミーが基本となったと同時に、平安期の華麗な恋愛文学も終焉を迎える。

 時を経て江戸時代初期に、「猪事件」というスキャンダルがあった。名門貴族である権大納言四辻公遠の子で山科家の養子(のちに猪熊と改名)となった、教利は在原業平や光源氏を想わせる「天下無双」の美男子であったが、女性関係も派手で「公家衆乱行随一」といわれた。

 慶長12年(1607年)2月、宮中の女官との密通が明るみに出て、後陽成天皇の勅勘をこうむり、さらに成立後間もない徳川幕府の命により斬罪に処せられ、自由恋愛を楽しんでいた多くの貴族や女官たちは配流に処された。

 以降、王朝の恋物語は、能楽や草紙のなかのみとなってゆくのである。

◯早川 智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

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早川智

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早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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