
■もみ消された剽窃
ヤン ヨンヒ監督:比較上映会にはメディア関係者も含めて約100人も集まりました。パク・チャヌク監督も来られて、これは放っておけない、DKGに入ってこの問題もぜひ提起して下さい、と言われました。すぐに理事会を開いてくれたのですが、この剽窃事件には、他の監督が私以上に怒ってくれました。業界を健全にすべきだという意識がすごくあるんですね。
著作権問題だけならば、二者間で裁判なりすれば良いのですが、問題は釜山国際映画祭と韓国独立映画界が手を組み組織的に隠蔽したことと、私の肩を持った独立映画人もすごく叩かれていたのも、去年判明しました。独立映画人にこの件で箝口令(かんこうれい)まで敷き、沈黙を誓う宣誓書にサインもさせていたんです。
——昨年、内幕が露見した。22年前、韓国ドキュメンタリー界の重鎮キム・ドンウォン監督が結成した韓国独立映画協会が、ホン監督に受賞させた。そこにケチがつくようなことがあってはならないと、この露骨な剽窃がもみ消されたのである。いわばリベラル側のヒエラルキーによる度し難いパワハラであった。
■監督が果たした役割
——著作権侵害であることは明らかになったが、いまだに釜山国際映画祭もキム・ドンウォン監督も、正式な謝罪をしていない。これに対して、韓国若手ドキュメンタリー監督が作ったユニット「ドキュフォーラム2020」は、「被害事例について勇気をもって共有して下さったヤン・ヨンヒ監督に大きな支持、そして連帯を表明」し、釜山国際映画祭に謝罪を求め続けている。
ヤン ヨンヒ監督:大きな権威になっている釜山国際映画祭に対しても、しっかりと意見を表明する若い監督たちに希望を見ますね。私はこのことがショックで、映画祭に白けていました。「スープとイデオロギー」も、公開はしたいけど、韓国の映画祭には出さないとスタッフにもOKをもらっていた。
でも、DMZの事務局長と委員長が会いたいと言ってきた。DMZ映画祭のアイデンティティーにぴったり合うし、作品が何よりも面白い。自分たちは口出しできないが、セレクションコミッティーがあるので、映画が良かったら通るし、ダメなら落ちるし、と言われたのが、うれしかったんです。
DMZは、剽窃したホン監督が委員長だった映画祭。しかし、私も彼女が辞めた後は、偏見は一切ない。作品を観てから決めるというのがうれしい。それが開幕作にまでなってすごいイントロダクションを作ってくれたし、最高賞もいただいたんです。
——どんな権威に対しても、おもねらずに自浄していく韓国映画界の成熟度。そこに在日であるヤン監督が果たした役割がいかに大きかったかは、多くの人々が証言している。(ノンフィクションライター・木村元彦)
※AERA 2021年11月15日号