ヤン ヨンヒ監督の新作「スープとイデオロギー」は2022年6月からユーロスペース、ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定 (c)PLACE TO BE
ヤン ヨンヒ監督の新作「スープとイデオロギー」は2022年6月からユーロスペース、ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定 (c)PLACE TO BE

 民主化も表現の権利もロールモデルを探して真似る部分は真似て、韓国の状況に合わないところは合わせて改善してシステムを作る。上手くいかなければ途中で反省して変える。

 それは政権に対しても同様じゃないですか。人間がやるんだから、政権は腐りますよ。映画界も同様で、ラジカルな進歩派が多くてもエゴの強い作家が集まった団体ですから、腐っていく。その度に見つめ直して改善していくということを常にやっている。自分の作品作りも大変なのに、業界の底上げのために自分の時間を使う監督がこんなにいるんだということが衝撃で、頭が下がりました。

■「揺れる心」無断盗用

——韓国映画界も腐っていた。ヤン監督はその象徴的な事件の渦中に、当事者としていたのである。それは23年前に起きた「『本名宣言』剽窃事件」。ヤン監督がNHK大阪と制作したドキュメンタリー「揺れる心」(96年)の映像を、韓国のホン・ヒョンスク監督が、9分40秒にわたって自身の映画「本名宣言」(98年)に無断盗用した。にもかかわらず、釜山国際映画祭がこの作品にウンパ賞を受賞させたのである。当時ヤン監督はNYに留学中で、ホン監督からは何の連絡もなく、報道でこの受賞を知り、製作元からテープを取り寄せて確認し驚愕したのである。

ヤン ヨンヒ監督:私の撮影した映像が勝手に使用されていて、驚きました。当時の私は朝鮮籍だったので韓国に入国できず、それでも抗議のために「揺れる心」のコピーを作って、釜山国際映画祭と韓国メディア、映画団体に送って盗作・剽窃の疑いを審議してほしいと訴えました。

 でも、釜山の審査委員会は「剽窃にあたらない」という声明を発表したのです。しかも、自主映画の監督たちが構成する韓国独立映画協会は、私に対して、「韓国独立映画の名誉を傷つけた」と公式に非難声明まで出してきたんです。

 なんでこんなパクリがうやむやにされるのか。私は、NYでそれを読んで寝込んでしまいました。私の提起を唯一書いてくれた中央日報に対しても、韓国独立映画協会は、「保守紙が進歩的なドキュメンタリストに対する言論弾圧、表現の自由を阻害している」として、問題をすり替えて攻撃してきたんです。

——昨年、22年経って、「揺れる心」と「本名宣言」の比較上映会がソウルで実現した。同様にホン・ヒョンスク監督からの被害に遭っていた女性プロデューサーがヤン監督の事件を知り、風化させてはいけないと企画してくれたのである。

ヤン ヨンヒ監督:私も2作品を見比べましたが、誰がどう見ても重大な著作権侵害であったことは隠しようがなく、これで一気に問題が可視化された。自浄作用を働かせたのも、また韓国の映画人たちであったわけですね。

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