料理の話をしていると、すごく深くなるんですよ。彼女は本当に無国籍な人。文化人類学者と話している感じがするんですね。枝元の料理は一見平和に家庭的ですが、全然違う。むしろ家庭の持っている価値観をぶち壊すような脅威がある。日本の文化の中におさまらず、違うところで常に何か取っかかりを探していると思います」(伊藤)

■日本の農業の問題を見て 「チームむかご」を発足

 40代に入り、枝元が初めて師事したのは料理研究家の阿部なをだ。明治生まれの阿部は青森出身の人形作家で、離婚を経て料理の道へ。みちのく料理の「北畔(ほくはん)」を営み、旬の食材を生かした心尽くしの料理をふるまっていた。「台所は女が一人でいられる場所」という凛とした生き方に憧れ、料理をする姿勢や食材との向き合い方を教えられた。

 仕事の現場では全力投球。だが、食材の流行や時短テクなど時流のスタイルがあり、メディアが求めるものに応え続けることで消耗していく自分もいた。料理の仕事では食材の産地に招かれる機会も増えていく。生産者の声を聞くと、農業収入が安定しない現状があり、後継者不足も深刻だ。このままでは日本の農業がダメになると危惧した。

「生産者は『きれいな野菜じゃないと買ってもらえない』と言い、消費者は『見かけは悪くてもおいしくて安全なものを食べたい』と言う。生産者と消費者の関係がねじれていると思ったの。その真ん中にいる私にできることはないかと考えたとき、捨てられているむかごを思い出したんです」

 むかご(山芋の葉の付け根につく球芽)は栄養があり、塩茹ですると美味(おい)しいが、売れないからと廃棄されていた。もったいないと思った枝元はそれを販売できないかと考える。捨てるものがお金になれば「希望の種」になるんじゃないかと。

 その話をすると「よしわかった。何か力になれれば」と聞いてくれたのが、農畜産物流通コンサルタントの山本謙治だ。山本は北海道の山芋の一大産地へ枝元を連れて行くが、生産者は「人手が足りない」と冷ややかだった。それでも他の産地を訪ね、無農薬栽培の農家と懇意になっていく。新幹線で畑へむかごをとりに行き、洗って干して袋詰めし、マルシェで販売しても1袋200円。「どれだけ老後資金を注ぎ込んだか」と苦笑する。

「彼女はピュアでまっとうにぶつかっていく人。困っている人がいれば、ひと肌脱がないと気がすまない。料理研究家という枠だけにおさまらないアクティビストなのだと思います」(山本)

(文中敬称略)

(文・歌代幸子)

AERA 2022年11月14日号

暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?