煉獄の実力なら、一気に先頭車両まで駆けて、魘夢の「頸の骨」を見つけることもできた。しかしその間、炭治郎たちでは、乗客を守り切ることができない。実際に炭治郎は、車両を守っている最中に「目の前の人たちを守るので精一杯だ まずいぞ どうする」と焦っている。
この状況では、鬼を倒すことよりも乗客を守ることの方がはるかに難しいと煉獄は一瞬で理解した。そのため、煉獄は、炭治郎と伊之助に魘夢を任せて自分は車両を守ることに専念した。「乗客を1人も死なせない」という信念と共に。
■「守りながら戦うこと」の難しさ
煉獄の判断は正しかった。善逸と禰豆子は3両の乗客を守り切り、炭治郎と伊之助は魘夢の弱点を発見して、その首を斬ることができた。煉獄は「8両編成の車両に分散している200人の乗客すべて」の命を守り切ったのだった。
しかし、この魘夢戦直後に、それ以上の実力者である「上弦の参」の鬼・猗窩座(あかざ)がやってくる。炭治郎、伊之助、善逸の実力では、猗窩座と渡り合うことは不可能。その場では、煉獄杏寿郎だけが、猗窩座と互角に戦うことができる唯一の人物だった。
<動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!!待機命令!!>(煉獄杏寿郎/8巻・第63話「猗窩座」)
煉獄は1人で戦うならば、猗窩座とも十分に渡り合うことができただろう。しかし、傷ついた後輩剣士たちをかばいながら、2体目の十二鬼月と戦うのは困難を極めた。敵であるはずの猗窩座に「弱者に構うな杏寿郎!! 全力を出せ 俺に集中しろ!!」と苦言を呈されているほどだ。
■強く優しかった“煉獄さん”
魘夢戦において、炭治郎は自分ができることに専念し、鬼の首を斬ることができた。しかし、猗窩座戦で炭治郎は何もすることができなかった。煉獄と猗窩座が到達している「地点」に、今の炭治郎では及ばなかったのだ。炭治郎は、母と弟妹の死以降、はじめて「自分が何もできないまま」に人を死なせてしまう。さらには、「自分を守るために死にゆく人」を目撃することになる。