「タバコも体に悪いから、1日に5本って決めてんだよ。あんたのせいで10本も吸っちまったじゃないか」
距離を置いて座った秘書も「机に肘を立てない! 行儀が悪いよ」などと注意される傍ら、自分の肘が机上にないのを見てホッとしていると、
「あんた何星人? 水星人マイナス? ああ、クールな利己主義だよ。シラーッとしてて情がないんだよ。今年は『乱気』だからよくないよ」
細木さんの趣味を聞くと、 「あえて言えば子どもが趣味。大好きなの。面倒くさくないし、口答えしないから」
十数年前にギリシャのクレタ島を旅して市民と宴会を開き、「酔って子どもたちに10ドル札を配った」という思い出に浸ってから、さらに弊誌へのこんなご意見も。
「『週刊朝日』はマジメすぎて堅いよ。分かりやすくかみ砕いて大衆に読ませなくちゃ。あたしが出る週だけでも売り上げ伸ばそうよ。(タレントの)くりぃむしちゅーに『載ってましたね』って言わせればいいよ。タッキーが『あの雑誌は難しいよ』というのを『今週は大丈夫』ってフォローさせればいいじゃん」
ビール1杯だけの細木さんは、「もう1杯追加。それ飲んで帰りな」を2度繰り返して4杯目の焼酎をすすめた。それでも女性タレントから電話が入ると、やっぱり言った。
「いま『週刊朝日』の取材を受けてんのよ。ずうずうしくてさ、なかなか帰んないの」
香ばしい焼き魚の名前を尋ねる勇気もなかったが、ほぐすのに手間取っていたら、細木さんは身を寄せてきて、手からハシをつかみ取り、「ほら、こうやんだよ」と骨を取ってみせた。
ツヤツヤの手が触れた一瞬、ドキリとした。
そういえば「恋人は7人いる」と語っていたこともある。恐る恐る聞いてみた。
「お付き合いしている人は何人いるんですか?」
「ゴマンといるよ」 のみ込めずにいると、「あんただって、あたしと仲良くなりたいと思ってこうしてご飯を食べてんだろう。そんなのばっかりなんだよ」
胸の高鳴りが収まらないうちに、またお叱りが飛んだ。
「早く食えよ。遅いんだよ、ひとりで気ままに暮らしてる証拠だよ。早く結婚しなよ」
そう言って、自分で注文した焼きそばをズルズル音を立てて食べた。テレビで見た面影は、もう消えていた。
「こういう普通のがいいの」と細木さんが100円のバニラアイスを頬張っている隣で、しばらく会っていない母親の顔を思い起こしていたが、郷愁に浸る暇もなく、こう釘を刺されて見送られた。
「これで書けるだろ。何でも書けよ。あっ、おい、だけど『妖怪』なんて書くなよ」
(本誌・藤田“半泣き”知也)
※週刊朝日2004年11月26日号より抜粋