確かに、細木さんの言説が「占い」にかこつけた「人生相談」だと考えれば、「キャリアが違うんだよ、歩いてきた道が違うんだよ、その経験が雑学なんだよ」 と豪語するように、相談相手としては魅力的な経歴の持ち主だ。

◆細木数子さんの「人生いろいろ」

 高校時代からキャバレーのホステスとして働き、中退して17歳から喫茶店やクラブの経営に乗りだし、一財をなした。短い結婚生活を経て再び赤坂や銀座でクラブを開いたが、詐欺に遭って莫大な借金を背負い、暴力団の追い込みをかけられた時代も。その後、歴代総理の相談役だった陽明学者の安岡正篤氏と親密な関係になり、易学などを教わった。

 芸能界も水商売もヤクザの世界も渡り歩き、政財界との交流もある元クラブのママが、道徳を重んじる安岡氏の教えを語り継いでいる。それがテレビで視聴者の共感を呼ぶのも不思議ではない。

 1時間半にわたる「説教」を終え、深くお礼を言って立ち去ろうとしたら、 「食べに行く? 行くんなら連れてってあげる。イヤだけど、連れてってあげる」

 複雑な気分で近くの小さな割烹料理屋に入った。カウンターに座るなり、細木さんは店の主人にまた言いだした。

「『週刊朝日』はこんな坊やを寄越したのよ。説教してやったけど、かわいそうだからメシご馳走してやんだよ。あたしを書くなんて無理に決まってるじゃん、ハッハッハ。ほら、食えよ。あと、もう少し勉強しな」

 細木さんは料理好きで、毎朝、自前の畑で取れた無農薬の野菜やコメで朝食を自分で作って食べているという。

「料理はうまいよ、あたし。日本全国の板前やシェフであたしを知らなかったらモグリだよ。なぜかって? ほんとに何も知らないんだな。『料理の鉄人』(フジテレビ系列)って番組で審査員してたの、いちばん辛口で日本中のシェフがビビったんだ。この店の主人も出させてやって鉄人に勝ったの。だからおいしいよ」

 食べたこともないような軟らかいマグロをほおばり、ビールを含んで、打ちのめされた気分をぬぐい去ろうとしていたら、隣で細木さんがメンソールのタバコの煙を吐き出しながら、またぼやいた。

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子どもが趣味という細木数子