「ケツは持てるのか」

 分からないことが分かるようになる。自分のことを自分で知る。テクノロジーは人生を前向きに変える。そのテクノロジーを誰より待ち望んでいるのは、働きづらさ、生きづらさに悩む女性たちではないか。アミナはフェムテックこそ自分がやるべき仕事だと確信した。

 それを話すと、孫は「面白いね。やってみたら」と言い、最後にこう付け加えた。

「それでちゃんとケツは持てるのか」

 孫の言葉の意味するところは分かった。投資家に出資してもらえば、株主に対する責任が生まれる。事業は一人では起こせないから、従業員を雇うことになる。その人たちの人生に対しても、一定の責任を負わなければならない。「その準備はできているか」と孫は問うたのだ。

 アミナは胸に手を当てて考えた。まだ、そこまでの覚悟はできていない。

「ちょっと待ってください」

 そう言い残すと、アミナは米国に旅立った。ミスルトウに押しかけた時と同じように、尊敬するエバーノートの創業者、フィル・リービンが経営するAIのスタートアップに飛び込み、半年間、そばに張り付いた。彼の働き方、意思決定の仕方をつぶさに学ぶためだ。19年4月、帰国したアミナは孫に言った。

「準備できました。やります!」

 とはいえ、フェムテックをどう事業にするかは、まだ決まっていない。資金を集めるには、投資家に示す事業計画を作らなくてはならない。(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2021年11月29日号より抜粋

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