翌日、街を歩いていると、古びたビルの途中に見覚えのある看板をみつけた。文字はアラビア語だから読めないが、前日に訪ねた検査施設の看板に似ている。ここのほうが宿にも近い。訪ねてみた。やはり言葉が通じない。すると、奥から白衣を着た女性が出てきた。
「RT-PCR Test?」
英語だった。訊くと医師だった。そこからの話は早かった。プリンターから1枚の用紙が出てきた。日本語と英語が表記されている。
「OK?」
医師はわかっていた。日本仕様と日本が指定する検査方法を。ホッとした。それから日本までかかる時間を一緒に計算。フライト当日の朝、検査をして夜には結果が出る。それを手に空港に直行すれば72時間以内に日本に着く。確認をとってくれた。対応してくれることになった。
カイロに着いて2日間、PCR検査の確認で歩きまわる日々。最終日はPCR検査。なにもないのはその間の1日だけになってしまった。いったいなにをしにカイロにきたのだろう。
これがコロナ禍の旅?
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。