教育の分野で、“非認知能力”が注目されている。 『鬼滅の刃』から見えてくるのは、「自分も相手もないがしろにしない」という 炭治郎たちの高い非認知能力だ。 AERA 2021年12月6日号から。
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心の力は可視化できない。だからこそ、育てるにはサポートも重要だ。
学童保育に通っていた小学2年生の男子は、2学期になってもほかの子らと馴染めず、一人で黙々と砂遊びをしていることが多かった。ADHDの診断があり、相手の気持ちをくみ取って話すことが苦手。夏休みの学童保育の行事に半分以上参加できなかったことに引け目を感じ、さらに心を閉ざしていた。
「ほかの子が一緒に遊ぼうとしても些細なことで『あっちへ行け!』と怒鳴ったり、暴力を振るってしまうこともありました」
当時、学童保育の指導員として男子を担当していた岡山大学全学教育・学生支援機構准教授の中山芳一さんは言う。状況を改善するため、中山さんはある仕掛けを考えた。「めちゃくちゃ大きな段ボールの家を作ってみないか」と男子を誘ったのだ。
得意の分野で協働
「ポイントは二つ。一つは、その子どもが得意な分野であること。その男子は『化石作り』と称して、いつも砂で何かを作っていました。もう一つは、協力が必要なこと。教室の半分くらいのサイズの家を作るには、誰かの手を借りないとできません。『気の合う子に手伝ってもらおう』と男子に提案すると、快く受け入れてくれました」
段ボールの家作りは、足かけ2カ月。興味津々に見物にきた子たちに、最初は「邪魔すんな!」と怒鳴っていたが、「すげぇ」「親方!」と声を掛けられるうち、「(完成を)お楽しみに!」と笑顔で応えるようになった。協力者も1人、2人と増え、最終的には20人近い子どもが参加したという。
「懸命に作業する姿をみて、周りの子も男子に対して親愛や尊敬の気持ちを持つようになった。完成直前、男子が盲腸で入院したときは、『彼が戻るまで色は塗らないでおこうよ』と思いやる言葉が自然と出ていました。ほかの子たちにとっても、男子は大切な存在になっていたんです」
その後男子は、周囲の子たちとうまくコミュニケーションを取れるようになったという。
非認知能力、という言葉がある。ノーベル賞受賞者で経済学者のジェームズ・ヘックマンが提唱した概念で、IQやテストの得点とは違い、「数値化できない能力」を指す。具体的には、自尊心や楽観性、忍耐力、継続力、社交性、共感性などが挙げられる。