中山さんは非認知能力の視点から男子の状態を分析する。
「非認知能力とは、『自分を高める力』『自分と向き合う力』『他者とつながる力』の三つに分けられます。その男の子は、他者とつながる力がとても弱い状態でした」
それを向上するための提案が、段ボールの家づくりだった。
ヘックマンも、幼児教育の中で非認知能力を育むことの重要性を説いている。中山さんはそのヒントが、漫画『鬼滅の刃』にはたくさんあるという。
炭治郎の「力」とは
「たとえば、主人公の炭治郎は、非認知能力が非常に高い。私も講演で彼の言葉や作品のシーンを例に解説することがあります」
どうすれば、子どもの非認知能力を高めてあげられるのか。
「親や教師が直接ほめたり注意したりすることはもちろん必要です。でも、子ども自身が主体的に当事者性をもって活動から学ぶほうが、得られることがはるかに多い。親は、子どもにバディを組んで活動する機会をつくってあげてほしいのです」
自分にはない強みや弱さを持った子と共に活動し、互いを認め合うことで、利他性が育まれる。コミュニケーションを通じ、お互いが変化していくプロセスが大切だという。
「子どもが普段できている部分を見つけ、言葉で伝えていくことも大切です」
たとえば、「笑い方が素敵だね」「掃除が丁寧で速い!」など、点数では評価されづらい部分を意識的にほめてあげる。
「すると、心の中に自分を評価するものさしがたくさんできて、一回の失敗や過ちで自信を失ったり、相手を全否定したりするといったこともなくなります」
点数で固定されがちな評価を「解きほぐす」ことにより、多様な視点で自分や他者を見ることもできる。
「『鬼滅』の炭治郎はこれもめちゃくちゃ上手。さっきまで殴り合っていた伊之助に、『鬼退治に一緒に山に入ってくれてありがとう』と感謝を伝える。また、自分を殺そうとした鬼が、柱の冨岡義勇に敗れて踏みつけられたときは、『自らの行いを悔いている者を踏みつけにするな』とかばっています。相手を評価する軸がたくさんあるのです」
「鬼滅」が非認知能力にもたらす効果は、AERAが行ったアンケートでも確認できた。「4歳の息子が何かに負けてしまったときに、『勝負には負けたけど、〇〇の部分は頑張ったから負けていない』と言うようになった」(34歳・会社員・女性)という声もあった。(ライター・澤田憲、編集部・熊澤志保)
※AERA 2021年12月6日号より抜粋