「純然たる野良だと人にお世話をさせてくれないことがある。もし、人間のお世話を受け入れてくれたら“生きる芽”があるけれど、受け入れなければ難しい。受け入れたとしても、基礎疾患もあるのでかなり厳しい」と。

 ただ、奇跡的に口と目は無傷で、鼻も“機能”は失われておらず、匂いを感じることができるようでした。匂いがわかるということは、ごはんを食べられるということです。望みがありました。

 ……動物病院で抗生剤の注射とノミ、ダニの駆除をして、抗生剤や止血剤などをもらい、さんを家に連れて帰りました。自宅で、できる限りのケアをしてあげようと思ったのです。緊急のケアのために、自分で開いているヨガの教室も、何日かお休みしました。

もぐもぐタイム、とにかく食べることが好き(提供)
もぐもぐタイム、とにかく食べることが好き(提供)

◆動じない猫さん、悟りを開いて肝が据わっていた

 けがをした猫さんには、玄関に置いたケージで、“借りぐらし”をしてもらうことにしました。

 なぜ玄関かというと、家には15歳の「きな」という茶トラのおばあちゃん猫がいたからです。

 猫さんは、白血病ウイルスは陰性、猫エイズが陽性でした。2度目に病院に連れて行った時にわかったことでし。猫さんは生命の危機はいったん脱しましたが、傷がひどいので、「きな」といきなり接触させないように隔離することにしたのです。

 正直なところ、家に入れるにあたり、私も夫も、先住の「きな」に対して申しわけない気持ちもありました。一般的に、猫さんは新入りが苦手ですよね。ひと悶着あってだんだんと慣れていくような感じで。高齢の「きな」にはストレスを与えたくないし。

 そうした先住猫への思いもあり、すぐに保護した猫さんに名をつけることもためらわれて……ちょっと言葉は悪いけど親しみも込めて、猫さんのことはしばらく「あいつ」と呼ぶことにしました。

 周囲に聞くと、「あいつ」は地域猫で、2015年頃に“おとなの猫”としてわりと近くで目撃情報がありました。だから年齢は若く見積もっても7~8歳。ずっと外にいたのに、いきなりのケージ暮らしでしたが、“悟り”を開いたようにおとなしくて。ケージのドアは、出ようと思えば出られる簡単な作りでしたが、中でじっとしていました。

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本当は最初のころ、猫を正視できなかった…