■米国の懸念材料はインフレと雇用

 S&P500の米国株投資信託が個人にも大人気だが、米国について、圷さんは2つのシナリオを想定している。実現する確率は7対3だという。

「メインシナリオはワクチンが効果を発揮して行動の制約がなくなってくるケースです。人が職場に戻れば生産や物流も回復し、材料やサービスの価格が下がってくるでしょう。

 米国は早ければ2022年に政策金利を引き上げると警戒されていますが、物価上昇が落ち着けば利上げを急ぐ必要がなくなり、株式市場を覆っていた不透明感も解消します。その流れで、来年には新興国も景気回復が予想されます」

 圷さんがサブシナリオと位置づけるのはコスト上昇によるインフレが軽視できなくなるケースだ。

「新型コロナが完全になくならず、サービス業を中心に雇用が以前と同水準には回復しないかもしれません。米国企業はデジタル技術を使いこなせない人材を積極的には採用しない。

 そして企業が求める人材は不足したままなので賃金は高止まりします。雇用が戻らなければ生産活動が完全には正常化せず、コスト上昇によるインフレが継続する恐れがあります。今のところ、雇用の戻りが鈍いのが気がかりです。

 コロナ禍からの景気の立ち直りが早かった中国で成長率が鈍っていることが、欧米の将来の姿を暗示している可能性も否定できません」

 世界経済の先行きに思いを巡らす圷さんだが、休日は「公園で子どもと遊んだり、本を読んだりして過ごします」。

 最近では『風の影』(カルロス・ルイス・サフォン著/集英社文庫)を読み終えた。スペイン発のミステリー小説だ。株式市場の「謎解き」と、どこか通じる部分があるのかもしれない。

◎圷 正嗣(あくつ・まさし)/SMBC日興証券 株式調査部 チーフ株式ストラテジスト。1980年生まれ。2005年、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社し、リテールエクイティの戦略部門に携わる。2011年にリサーチ部門、国際市場分析部で日本株を担当。2016 年より現職。「日経ヴェリタス」ストラテジスト部門第1位、米国の金融専門誌『Institutional Investor』のエクイティストラテジー部門第1位(共に2021年3月)

(取材・文/大場宏明 編集/中島晶子)

※『AERA Money 2021秋号』から抜粋

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