五つ目が、トイレを洗面室の中に組み入れ、広いスペースを確保したこと。なぜならトイレの介助が必要になったとき、狭いトイレだと介助者が入れない。かといって、広い独立トイレを設けるのも限られた空間がもったいないからだ。トイレで汚しても、すぐにお風呂で洗えるよう、トイレと風呂場の動線も意識した。
六つ目が、手すりの設置。玄関、ベランダに出る窓の横、浴室の入り口と浴槽まわり、トイレの数カ所に設置した。
「トイレ用の手すりは介護保険でレンタルもできますが、見た目と使いやすさの観点から、トイレの両サイドに手すりをオプションでつけられるパナソニック製のトイレを選びました」
最後に、滑りにくい床材選び。玄関にはテラコッタのタイル、キッチンと水回りにはクッションフロア、廊下と居室はクッション性の高いカーペットを選んだ。
「すべて母が使いやすいかどうかを徹底的に意識して選びました。お風呂やトイレ選びを始め、各種ショールームには、母とリフォーム担当の建築士とともに足を運んで、実際に使用感を試しながらシミュレーション。リフォーム業者は、フットワークが軽く、細かな要望にも対応してくれる小所帯の事務所を選んだことも正解でした」
リフォームにかかった総額は、880万円。高額ではあるが、高齢者には必要ないと感じた設備はすべてカットし、必要最低限のものにした。ウォークインクローゼットも取り払い、全てを「使う空間」にしたことで、空気の巡りもよくなったと感じている。
「リフォームして大正解。91歳の母が元気なのは、リフォームのおかげかも」と笑う顔には、少しの後悔もなさそうだ。(フリーランス記者・松岡かすみ)
※週刊朝日 2021年12月17日号より抜粋