ビートたけしの同名小説を映画化した「浅草キッド」で、ビートたけしその人を演じるのが、俳優の柳楽優弥さんだ。コメディアンであり、映画監督であり、小説家。そんな人物を演じるのは、「闘い」だったという。AERA 2021年12月13日号から。
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――12月9日からNetflix映画「浅草キッド」が全世界で同時配信される。ビートたけしが自身の師匠である芸人・深見千三郎との日々を綴(つづ)った同名小説をもとに、劇団ひとりが脚本・監督を務めた。
柳楽優弥が演じるのはビートたけし、その人だ。顔のつくりは似ていないはずなのに、作中では不思議なほどビートたけしに重なる瞬間がある。
柳楽:僕自身が初号試写を観終わって感じたのは、「劇団ひとり監督は天才だな」ということでした。ヒューマンドラマとして心理を丁寧に描きながら、しっかりとエンターテインメント作品として成立していて、コメディーというわけでもなく、質の高い映画になっている。本当にすごい、と思いましたし、映画監督として才能がある方なんだ、と改めて感じました。
劇団ひとり監督は、現場では決して褒めないんですよ。「良かった」とも「悪かった」とも、一切おっしゃらないんです。役を演じるにあたり、クランクインの4カ月前からタップダンスの練習を始めたんですが、その頃から今まで、一貫して褒められた記憶がないです(笑)。
撮影中は、カメラにどう映っているのだろう、と不安に感じることもありました。演じていて、なんとなく感触を掴める時があるのですが、そうしたものがまったくなかったんですね。
劇団ひとり監督は、俳優として、僕が不安に感じていることを理解したうえで、ときに突き放してみるなど、心理的な駆け引きをしていく力に長けている方なのだと思います。どこか手のひらの上で踊らされているような感覚もありました。
一方で、僕が現場で提案してみたこともフレキシブルに受け入れてくれる。完成した作品を見ると編集も素晴らしいと感じましたし、僕自身大好きな作品になりました。