そういう作業を無我夢中で四苦八苦しながらやっていると、ある日の夜、瑛子さんが夢枕に立ちました。見るに見かねて降臨したんでしょう。それで、何かアドバイスをしてくれたようなんです。しかし残念なことに……なんて言っているのか聞こえなかった。まあ、そのときのムードから、これでいいんだと腹を括りました。

 本書がタイムレスに読み継がれる1冊になることを願っています。ある意味、本というものは、書き終わってから始まるんだと思っています。私の目標はアート&コマースのマリッジですから、自主的なセールス活動に力を入れています。500ページ超の書籍を「どうやれば読んでもらえるか?」の挑戦です。

 トークイベントもかなりの数やりましたし、担当編集の山田さんと書店を約60軒営業に回りました。図書を必要とする多くの方に届けるためには、宣伝が大事なんです。広告屋の立場から言うと「いいものだから売れる」というのは幻想です。

 本書に関して、お世話になった皆様に感謝いたします。すでに5年以上並走してくれている担当編集の山田智子さん、取材に応えてくださった皆様。インタビューのきっかけをつくってくれたギンザ・グラフィック・ギャラリーの北沢永志さん、装幀をお願いした箭内道彦さん、小杉幸一さん。私の家族、選考に携わってくださった先生方と関係者の皆さま、版元である朝日新聞出版。そして石岡怜子さんとご家族、もちろん瑛子さんご本人と読者に。

 お名前をあげていくと大変なことになるのですが、一冊の本もご縁とコラボレーションによって生まれるものだということを噛み締めております。本日はありがとうございました。

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 毎日出版文化賞は、毎日新聞社が主催する、優秀な出版物を対象とした文学・文化賞。文学・芸術部門、人文・社会部門、自然科学部門、企画部門の4部門と、特別賞が併設されている。

 第75回は、文学・芸術部門『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(河尻亨一著)、人文・社会部門『人びとのなかの冷戦世界 想像が現実となるとき』(益田肇著)、自然科学部門『言語とフラクタル 使用の集積の中にある偶然と必然』(田中久美子著)、企画部門『シェイクスピア全集』全33巻(松岡和子訳)、特別賞『チェーホフの山』(工藤正広著)が受賞した。

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