
そんな私が執筆しました『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』。自分で言うのもなんですが、これはなかなかすごい本です。いや、本当なんです。それは私がすごいのではなくて、この評伝の主人公である石岡瑛子さんがすごいんです。
ちょうど10年前、彼女の活動にフォーカスしたNHKの「プロフェッショナル」がオンエアされましたが、番組の最初に出てくるテロップは、「すごい日本人がいた」。身も蓋もない話ですけど、基本的にそうとしか語りようがない人物です。
どこがどうすごいのか? 一例を挙げますと彼女は、仕事の上で目指すべきは「アートとコマースのマリッジ」だと言います。簡単に言うと、芸術性の高いものと一般ウケするものを両立すべきだと言うんですね。
私もそうなのですが、一部の人だけが理解できる「気取ったアートサロン」は嫌いだと言うんです。大衆社会を攪拌するような活動がやりたいと言う。一方で、人々が求める「売れるもの」に忖度・迎合する広告的マーケットもイヤなんです。流行は追いたくないんですね。
いわば水と油。今日はそれがキーワードなんですが、この両者が完璧に美しく溶け合う瞬間を目指すと、彼女は言うわけです。「タイムレス・オリジナリティ・レボリューショナリー」の精神でいけばそれは可能だ。“YES, We can”だと。ど真ん中を行こうと。
言葉で言うのは簡単ですが、なかなか難しいんです、実際は。芸術と商業には相反する要素も含まれていますから。素晴らしいアートだからと言ってヒットするわけではない。しかし、彼女はそれを口で言うだけではなく実践してきたわけです。
資生堂を退社してからは、どこの組織にも属さず、グラフィックデザインから美術、衣装などいろんなジャンルに越境しながら、フリーランスの立場でそれを成し遂げました。1980年代からはニューヨークを拠点に移して、世界的クリエイターたち、まあ言うならば『ゴッドファーザー』クラスの“ビッグボス”たちとコラボレーションしながら、厳しい現場を生き残ったわけです。