今年1月1日に亡くなった俳優の福本清三さん。「5万回斬られた男」として数多の時代劇で活躍してきた福本さんの思い出を里見浩太朗さんが振り返る。
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私が「東映第3期ニューフェイス」としてデビューしてから65年、そのうち50年は福ちゃんと一緒にやってきました。これまで映画とドラマで400本以上に出てきて、何百回と福ちゃんを斬りましたよ。
昔から普段は目立たないんです。現場で彼を探して「おーい、福ちゃーん、福ぼーん」って呼ぶと、すっと出てくる。おとなしくて、でしゃばらない、騒がない、でも演技のときは、しっかりと「目立って」いる。それも主演を立てて、決して自分が前に出てくることはない。
福ちゃんが出るときは、「今日はどんな見せ場をつくってくれるかな」「どんな死に方するんだろう」っていつも楽しみなんです。
撮影のときはいつもご飯とかお茶を飲みに誘ってましたよ。普段は無口な感じだけど、そういうときは軽い話もしました。私が「大江戸捜査網」や「水戸黄門」の撮影で何年間も東京と京都を行ったり来たりしてたから、「里見さん、あかんで、そんな稼いでたら。体を大事にしないと」って。舞台も一緒に回りました。舞台では、私は歌も歌いますから、「わしも、それくらい歌がうまかったらもうちょっと売れたのになあ」なんて冗談も。
福ちゃんの思い出で一番印象に強く残っているのは、映画「ラスト サムライ」(福本さん出演)の撮影の後です。
まだロサンゼルスにいるときに、表彰か何かでニューヨークに来てほしい、という連絡があったらしいです。でも福ちゃんは「そういうのはいらんわ」って断ったんです。それですぐに京都に戻って、翌日にはそのまま仕出し(通行人の役など)をやるんです。その他大勢の一人ですよ。斬られ役でもない。
映画でトム・クルーズと共演して、あれだけの役をやって帰ってきたら、普通の人はやらないですよ。だって、もうスターですから。私も「福ちゃん、それはやらなくてもいいんじゃないか」って言ったら、「わしはそんなの気にしてない」ってことを平然と言うんです。なんという男なんだろうと。感服したというか、スケールが違うというか。
私は地上波以外も時代劇を多く見ますが、そのうちの7割には福ちゃんが出ていますね。すごい男で、いい同僚でした。
(構成/本誌・矢崎慶一)
※週刊朝日 2021年12月24日号