人生の岐路というか、肉体の岐路に立っている自分は、かつて一度も経験したことのない未知の入口に立っている。これが85歳の肉体かと思うと、僕よりも年長の老人で元気な人は何人もいる。老人は一様に老人になるのではないという現実を、今、まざまざと見せつけられている。僕の病気はどうも自分を老人と認めず、まだ若者の延長にいるというシン・老人意識のせいかも知れない。それにしても救急車で搬送されたことも、老齢になると全てアートのように思えた。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰

週刊朝日  2021年12月24日号

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