横尾忠則
横尾忠則
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 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。横尾さんは最近、救急車で病院に運ばれたという。

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 深夜、突然激しい息切れと動悸に襲われた。普段から少し動いたり歩いたりするだけで、息苦しくなっていた。コロナ禍が始まる少し前ぐらいからその兆候はあったが、それが安定している睡眠時に起こった。手はしびれて氷のように冷たい。這うようにして二階の妻の寝室までやっと辿り着いた。

「救急車を呼びましょう」と言って妻は秘書の徳永を呼んだ。救急隊員がどやどやと家の中に入って、玄関から車輪付タンカに乗せられて救急車の中に運ばれた。救急車に乗るのは2年振りだった。あの時は高熱と喘息、肺炎の危機で外来救急のあわただしい診察に命の終焉を妄想して恐ろしかった。今回とて、救急車で運ばれること自体、危険領域に達しているという強度の不安感に襲われていた。

 この日の午前10時半にすでに内科の主治医の予約を入れていた。深夜の診察の結果のデータはすでに主治医に伝えられていた。長時間の問診の結果、運動負荷心電図をとることになったが、特に異常は見られなかった。結局原因不明で、特定の病名はない。病名のない病気は僕にとっては不安だ。想定できる範囲内での精密検査を今後も続行することになって、今日はとりあえず帰宅することになった。

 日常生活では、ゆっくり歩くことを薦められた。この数年間、歩行もままならない生活習慣に原因があると自己診断していたので、生活を改善するために明日から自転車と歩行を交互にしながらアトリエに通勤することに定めた。元気になることを目指すのは若返りを目指すことなので、これは難しい。元気になろうと頑張らずに、持てる能力で出来ることを考えるべきだ。鍛えるための運動は良くない。自分のペースで無理のない範囲で歩くのは良いが筋肉を維持することはできない。今日の検査の結果では狭心症や心不全の心配はないと診断されたので論理的には病気ではなさそうだ。

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