
「排液を捨てるなど終了後の処理に40~50分かかりますが、仕事と思えばどうってことはありません。使い方は1週間ほどで慣れました」と話す山本さん。毎日、午前10時ごろから1時間ほど散歩をする。20年以上、続ける習慣だ。その後は行きつけの喫茶店でのランチが恒例。血液透析では、この生活は続けられなかっただろう。
山本さんの主治医で、江戸川病院透析センター長の古賀祥嗣医師は昨年のコロナ「第1波」以降、積極的に腹膜透析を推奨してきた。
「血液透析は密閉された空間で週3回、約4時間、複数の患者と過ごします。ベッドや更衣室、待合室も共有することから、クラスターの発生が予想できました。透析患者さんはコロナになると重症化しやすく、死亡率が高いので、人道的にも在宅でできる腹膜透析を推奨すべきと考えました」
前述の小林医師は「腹膜透析は通常、月に1回程度の通院ですが、コロナの流行期は電話診療やオンライン診療を取り入れ、2、3カ月に1回に抑えることができました。腹膜透析では、おなかにあるカテーテルの出口部に感染が起こっていないかを診ることが特に重要ですが、オンラインでも画面越しにその確認ができました」。
腹膜透析は高齢者に向くとも言われる。
東京女子医科大血液浄化療法科教授の土谷健医師はこう話す。
「血液透析は毒素の除去効率はいいのですが、その分、心臓に負担がかかる。狭心症や心筋梗塞など心臓の弱い患者さんには困難なことがあります。ゆっくり時間をかけて行う腹膜透析はそうした心配がないのです」
透析を受ける患者の多くは高齢者だ。日本透析医学会が一昨年に行った調査では、平均年齢は69.09歳。70代が最も多い。導入時点で歩行に不安があったり、認知機能が低下したりしている患者も珍しくない。小倉記念病院(北九州市)の副院長、金井英俊医師は言う。
「最近は高齢者施設でも、介護スタッフのサポートで腹膜透析ができるところが増えてきました。また血液透析に通えなくなった人が、最期の段階で腹膜透析に移行するケースも出てきています」