■「独走態勢」に待った
この独走態勢に待ったをかけたのは、エリザベータ・トゥクタミシェワ(24)だ。エフゲニー・プルシェンコを育てた名伯楽アレクセイ・ミーシンの秘蔵っ子。13歳のとき練習でトリプルアクセルを降り、15年の世界選手権で初成功した。スランプを経て、21年世界選手権では6年ぶりの表彰台となる銀メダルの快挙を遂げた。
「2年前からトリプルアクセルの技術は確実になり、怖いものが無くなりました。24歳で復活した秘訣(ひけつ)は、フィギュアスケートの進化と共に自分も進化することです」(トゥクタミシェワ)
ソチ、平昌と逃した悲願の五輪に向け、今季も好調だ。
そこに満を持して登場したのが、ワリエワ。シニアデビュー戦から3戦連続で世界記録を更新し続けるという“一人旅”で、一気に北京五輪の金メダル最有力候補となった。
この高得点の源は「トリプルアクセルと4回転の両方が跳べること」に尽きるだろう。
女子のルールは、ショートで4回転を跳べないためトリプルアクセルが最難度の技となる。ロシア女子で今季、トリプルアクセルの成功率が高いのはトゥクタミシェワだけ。しかもワリエワは両手を上げた空中姿勢で跳び、着氷後の流れもある。成功すれば確実にショートで首位を取れるのだ。
またフリーもトリプルアクセルがあることで、ダブルアクセル(2回転半)を入れないジャンプ構成が可能となり、ロシア杯のフリーでは、トリプルアクセルと4回転3本で得点を積み増した。さらにワリエワは、独自の身体表現をすでに確立している。長い手足を生かした美しいポジションは秀美で、ロシア杯ではショート、フリーともに演技構成点の5項目すべてで9点台をマーク。特にフリーの「ボレロ」は貫禄の世界観で観客を引き込んだ。
ジャンプだけでいえば、フリーで「4種類5本」の4回転に挑戦できるトルソワの方が、予定する基礎点は高い。しかしパーフェクトに決まらなければ、ジャンプでの減点だけでなく演技構成点も下がり、4回転をたくさん跳んだ割に点が低くなる。