所長はモリーナを仮釈放するが、そこにも冷酷な目論見が。政治犯バレンティンのゲリラ組織の秘密を聞き出すように仕向けていた……。
舞台冒頭、照明にうっすら浮き上がる石丸は可憐な少女のようだった。彼の演じるモリーナにはステージ上で消えてしまうほどの儚(はかな)さがあった。
裏切られても恨まず、凶弾に倒れてますます、その純度が高まった。
終演直後の石丸は演じたばかりで体も心も上気していた。
性的マイノリティの主人公を演じる上での心づもりを訊くと、「形からのアプローチではなく、戯曲を読み込みながら、自分の中にある女性的なものを見つけていった」という。
嫉妬や意地悪といった感覚も身の回りの女性たちから学び、画一的ではない女性性を滲ませたという。『パレード』『蜘蛛女のキス』と社会的弱者を演じたが、「コロナという日常の中で、ぎりぎりまで役を掘り下げた」
世界には強権的な政治体制で、今なお人権を抑圧している国が多い。
「決して他人ごとではない問題。これからも率先して取り組みたい」と俳優としての矜持を示した。
「社会派のテーマであっても、ミュージカル音楽やダンスの力で、極上のエンターテインメントになりうるのだから」
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年12月31日号