TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。俳優の石丸幹二さんについて。
* * *
一年を振り返って手帳をめくると、僕にとって今年のミュージカルは石丸幹二に始まって石丸幹二に終わったことに気づいた。
まず1月、南北戦争終結後のジョージア州アトランタを舞台にした『パレード』で、強姦殺人犯に仕立てられたユダヤ人レオ・フランクを、11~12月の『蜘蛛(くも)女のキス』では、ファシズムが台頭するラテンアメリカで、同性への性的虐待の罪で監獄の日々を送る同性愛者モリーナを演じた。
どちらもひたむきで純粋であるがゆえの孤独な主人公を演じ、コロナ禍に揺れるひりひりした現代の鬱屈とシンクロして、人生を深く洞察する作品だった。
『蜘蛛女のキス』は牢獄に閉じ込められたゲイと革命家の物語、原作はマヌエル・プイグ。ウィリアム・ハートが主人公を演じた映画はアカデミー賞主演男優賞、カンヌ国際映画祭男優賞に輝いたが、人生の極みを味わうには、音楽、コスチューム、照明、舞台美術が織りなす非日常の舞台もまたふさわしい。
映画好きのモリーナは、スター女優オーロラを夢見る刹那で厳しい現実を何とか生きていた。そんな彼女の部屋に政治犯バレンティンが放り込まれる。屈託なく映画の話をバレンティンに語りかけるモリーナに、バレンティンは心を開いていく。彼は容赦ない拷問で瀕死の傷を負うが、モリーナはその傷を優しく癒やしてくれる。軍事独裁政権下ではゲイも革命家もマイノリティなのだ。
モリーナの枕元に蜘蛛女(安蘭けい)の亡霊がしばしば現れる。キスをすれば誰もが死に至る不吉さはまるで死神だ。そしてもう一人、死の使者が刑務所長。鶴見辰吾の見事な演技は、殺人ゲームを楽しむように先回りしながら二人をじりじりと追い詰めていく。音楽の微妙な旋律が二人の心情を表現し、ラテンアメリカのメロディは哀しみを根源にしていると知った。