現在は福島の被災地や行政の愛護センターから迎えた子たち6匹と暮らす。写真は昨年亡くなった保護猫、ももじろうと (本人提供)
現在は福島の被災地や行政の愛護センターから迎えた子たち6匹と暮らす。写真は昨年亡くなった保護猫、ももじろうと (本人提供)

 もうのいない人生なんて──と思う人は多いだろう。とはいえ、動物を飼うことは、覚悟がともなうということも本当の愛猫家は知っている。猫を愛してやまない俳優の杉本彩さんに、思いを語ってもらった。

【写真】こんな姿見たことない! 枯れ葉をやさしく抱えて立ち上がる猫

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 2014年に公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」を立ち上げました。そのきっかけになったわけではありませんが、忘れられない猫がいます。13年に亡くなった、さくらという真っ黒な男の子です。出会ったのは11年3月。愛知県岡崎市から講演依頼を受け、初めて愛護センターを見学したときです。脳に障害があって下半身が不随。頭がずっとゆらゆら揺れていました。東京に帰ってからもその黒猫が頭から離れなくて。

 とはいえ、一時の情に流されて安易に判断すべきことではない。まして障害もある。考えに考えて、周囲にも協力してもらえる態勢を整えて、覚悟を決めて迎えました。

 さくらは、最初は何とか自力で立ち上がろうとしたし、動かせる前脚でおもちゃにじゃれるそぶりも見せました。でも、排泄(はいせつ)はおむつやペットシーツだのみ。それもやがて自力ではできなくなって、圧迫排泄が日課になりました。寝たきりは良くないので車椅子を作ってもらい、それで体を支えて食事するんです。でも頭が揺れるもんだから、口の周りから顔中がべたべた(笑)。顔をきれいに拭いてあげると、そのまま車椅子でお昼寝。それが日課でした。

 あるとき、4カ所ほどひどい床ずれができているのが見つかりました。どうして気づいてあげられなかったのか、猛省しました。薬をもらい、マットレスを介護用に変え、必死で治療すること7カ月。傷が治り、毛も元通りに生えそろいました。それからしばらくしたある日。いつものように食後、車椅子でお昼寝をしながら、眠ったまま、さくらは静かに旅立っていきました。

 必死に生きようとする姿には、感動しかありませんでした。彼の生涯を全うするお手伝いができたことは、2年半の短い時間でしたが、宝物のような経験です。

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