新作CDのリリースすらネットに落とすネタの一つとしか捉えないほどのネタ至上主義っぷりが、金爆を<オタク文化としてのV系>の象徴的存在たらしめたのは、もはや史実だ。それだけに今回のスキャンダルもいつも通りにネタ化してはみたが、現時点ではマイナスに作用してしまった。鬼龍院にとっては初めて喫した敗北である。しかしそれでも業のようにネタ化し続けるしかない。たたかれようと全否定されようと、それが鬼龍院のアイデンティティーそのものなのだから。
そういう意味では窮地に追い込まれた金爆は、次から次へと試練に見舞われ続けた大先輩X JAPANが残した轍(わだち)を追うことになるのかもしれない。それはそれで金爆18年目にして初の<V系先祖帰り>なわけで、これもまた輪廻(りんね)かーーっておい。
なお、今回の一件は金爆にとっては未曽有の危機だが、V系にとっては編集氏が危惧するような未曽有の危機ではない。いまの世代にとって推しの対象はV系以外にもたくさん、広範囲にわたって存在するからだ。それはそれで寂しく、運命共同体たちが懐かしくまた愛おしい。
◎市川哲史(いちかわ・てつし)
音楽評論家。1961年、岡山県生まれ。80年代から、音楽誌『ロッキング・オン』などで執筆活動を開始。同誌ではX(当時)やBUCK-TICKなど後にビジュアル系と呼ばれるバンドをいち早く取り上げた。独立後は『音楽と人』編集長を経て、2005年に『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』などを上梓。現在は音楽誌『ヘドバン』で「市川哲史の酒呑み日記 ビヨンド」を連載中。