
バンドの生演奏に合わせて、日々の悲しさを生き生きと歌い踊る登場人物に、「そうか、新しい時代は歌なのだ」と納得した。
四角く何もない空間にうっすらと照明が入るなり、釜ケ崎の濃密な闇が立ち現れ、そこかしこから女のざわめきが聞こえてくる。そのざわめきはメロディに誘われるまま歌となり、いつの間にか観客は見も知らぬ空間にワープする。


江口のりこのすらりとした痩身(そうしん)には清潔感が漂い、歌声は美しく可憐(かれん)で、天使のようにステージ天井に昇っていった。
姉と同様、どこまでも堕ちてゆく夏子役、前田敦子もままならないやるせなさを体現し、寂しさのあまり姉の男を奪ってしまった夜、ひとりアパートに佇(たたず)む後ろ姿の色気に慄(おのの)いた。

「あたしの夜は復讐(ふくしゅう)の夜。人間という人間をめちゃめちゃにしてやる」
「うちらの青春は かわいそうや」
江口、前田に加え、ステージに立つのは伊原六花、福田転球、大東駿介、北村有起哉ら。
本作の舞台は釜ケ崎だが、上演された横浜の路地にもかつてヨコハマメリーという戦後半世紀もの間、白塗りで立ち続けた娼婦の老婆がいた事実を思い出した。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年11月4日号