TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。ミュージカル『夜の女たち』について。
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長塚圭史上演台本・演出の『夜の女たち』を観た。
圭史は僕の勤めているラジオ局のレギュラー出演者でもある。彼の番組スタッフと連れ立って、KAAT神奈川芸術劇場に出かけて行った。
『夜の女たち』は彼にとって初めてのオリジナルミュージカルである。元々は先ごろ亡くなったジャン=リュック・ゴダールも敬愛した名匠溝口健二の作品(1948年)だが、「映画脚本には余白が多く、カメラで真に迫っていた部分を言葉で起こし、膨らませる作業は非常に面白かった」と圭史は語っている。
舞台は敗戦直後の大阪・釜ケ崎。
「日没後、この付近で停立または徘徊する女性は闇の女と認め、検挙する場合があります」と当局が立て札を掲げた。「闇の女(夜の女)」とは慰安所や娯楽施設で進駐軍の相手をする女性たちを指す。
江口のりこが主人公・房子を演じている。彼女は病気の子を抱え、貧乏の極みにあった。戦地に行った夫は消息不明のまま帰ってこない。着物を売って何とかしのいだがそれも底をつき……。
夫の戦死の知らせが間もなく届く。姑(しゅうとめ)や義理の妹と生活をともにしながら、彼女は生きるために意を決してモンペを脱いで原色のドレスを着て、髪にパーマをかけ唇に赤いルージュを施して、腕を組み街の闇に立つ。
ひもじく、腹を空(す)かせ、思い出したくもない時代があった。
圭史はその時代に音楽を照射しようと、音楽家・荻野清子に声をかけ、ミュージカルに仕立てた。
ミュージカルに対して「どこか現実と切り離したところで見せるひとときの夢を求めたい気持ちがあった」という荻野だったが、「せりふや芝居の中にある『感情』が歌になることで、より鋭利に突き刺すこともできるのだと、音楽と歌が持つ力を私自身の中で更新できた」。