──ところで、ノーベル賞を受賞後、生活は変わりましたか?

「ノーベル賞を授与されたのは驚きだったし、それについてはあまり考えないようにしている。これまでどおりにやっていくだけだよ。ノーベル賞に決まったのは62歳のときだったが、もし82歳だったら、引退していたかもしれない。62歳だから、続けるしかない」

──エリザベス女王が亡くなられました。死去について、また、英国王室に対する昨今の関心の高さについては、どう感じますか?

「国民が国民として自分を意識できるのは、政党以外、王室くらいしかない。その意味で英国社会にとって王室は象徴として重要な存在だ。エリザベス女王は、政治的中立性を保ち国民から温かく受け入れられていた」

「僕には、大聖堂の前で女王の乗った車を見た古い記憶がある。まだ女王という立場を理解できないほど幼い、5歳のときのことだ。その後も何度かお見かけする機会があり、一度はお言葉をいただいたこともある。だから個人的にも女王の死を悲しく受け止めている。英国の一つの時代が終わったという意味でも。この映画を作ったときは思ってもみなかったが、時代の流れを見せるために7月から8月へとカレンダーが移るシーンで、8月のカレンダーの写真が女王の戴冠式のときの写真なんだ。そのシーンが今となっては、哀愁を感じさせるようになった。まだ直後なので、女王の死去の意味をうまく分析できない。彼女の存在は英国、ひいては世界においても、一つの時代の象徴であったと思う」

(高野裕子=在ロンドン)

週刊朝日  2022年11月4日号