「生きる LIVING」(c)Number 9 Films Living Limited
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──日本映画界の衰退も同様の事情があったと思いますか?

「英日映画界の歩みは、並行していたように見える。50年代の日本映画界が生み出した傑作の数々は驚くほどだ。世界中の映画評論家が名作とみなす映画の数のなんと多いことか。黒澤や小津のほかにも成瀬巳喜男や小林正樹や市川崑といった名監督の作品が続々と世に出た。ところが60年代に入るとピタリと止まってしまう。テレビの普及が原因だったのか……映画産業が変化し、消えてしまったようだった」

──現在の日本映画については、どう思われますか?

「いま日本映画は健在だと思う。是枝裕和、濱口竜介、ほかにも河瀬直美なども面白いし。是枝はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したし、濱口は米アカデミー賞の国際長編映画賞だけでなく、作品賞にノミネートされた。現在日本のアート・シネマは健全な状況にあると思う」

──ご自身の映画業界とのかかわりは長いようですがどこにひかれますか? 文学界との違いは?

「僕は脚本家ではない。小説が僕の領域だ。これまで何度か自分の小説が映画化のため脚本化された。現在も七つぐらいのプロジェクトが進行中で映画化の可能性がある。非常に興味をそそられるのは、映画が本業でないからという理由もあるだろう。もしも本業だったら、やっていけないと思う。不確定要素が多すぎる業界だよ(笑)。資金集め、ミーティングなどにたくさんの時間が取られ、実際にクリエーティブな作業に費やす時間は少ない。そんな世界に自分を置いたら、ズタズタになってしまうよ。距離を置いているから対処できるんだ。映画を観るのは楽しいし。9月にベネチア国際映画祭で審査員を務めたのは本当に楽しかった。カンヌの審査員も経験したし。映画はいつも観ているし、語るのは楽しい。それは作家としての僕の重要な一面だ。映画との接点がなかったら、僕の作品の内容も異なっていたと思う。ページに綴るフィクションと、スクリーンに綴るフィクションは非常に深い関係にある」

──今作が賞を獲得してほしいというようなことは意識していますか?

「ビル・ナイには賞を取ってもらいたい。俳優の演技が光る映画だと思うから。若手の演技もとてもいい。俳優の演技を評価する場合も、演技だけではなく映画を全体として評価しなければならない、切り離しては考えられないから。だからビル・ナイがアカデミー賞にノミネートされたらうれしい。彼が何か賞を取ってくれれば、僕ら映画全体の関係者にとっても、とても喜ばしいことだ」

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