■人生の大きな糧として

小川:例えば、自分が100億円を持っていたら、小説を書くかなぁとかたまに考えるんです。いわば100億の壁問題ですね。

伊沢:あぁ、なるほど。それ、いいネーミングですね(笑)。

小川:結論としては、書くよなと。100億円を持っている自分が見た世界はそれまでと違うはずだし、その状態から書かれる小説を自分でも読んでみたい。

伊沢:その時に自分の中から出てくるテーマってなんなんだろう、と。

小川:そうなんですよ。売れてほしいって気持ちが全くない状態で書く小説なわけじゃないですか。興味がありますね。

伊沢:100億円かぁ。100億円あげる代わりに、クイズのことは二度と考えられないよってなったら、100億円は諦めるかもしれない。

小川:僕もそうですね。

伊沢:クイズで勝つことは自分の人生の大きな糧です。いまだに、クイズ大会に出て負けたらめちゃくちゃ悔しいですもん。クイズのことを考えられなくなったら、それは自分としてはもう死んでいるのと同じだと思います。だって、こうして話している間も、新しい問題ができないかと考えてしまいますからね。「『100億円もらえたら今の仕事をやめるか』という命題のことを、俗に何問題というか?」とかね。答えはアエラ本誌の68ページで。

小川:もうクイズになっている(笑)。僕にとって小説家は、今の自分が最もストレスなく生きていくために、現状判明している最も適切な職業なのかな、と思っていたんですが……。

伊沢:いや、小川さんも、どこかの十字路で悪魔に魂を売ったんだと思います(笑)。

(構成/ライター・吉田大助)

AERA 2022年10月24日号より抜粋

※なお、小川哲さんは10月28日(金)、ブックファースト新宿店で『君のクイズ』のイベントを予定している。リアルでの参加、オンラインでの参加も受け付け中。

http://www.book1st.net/event_fair/event/page1.html#a_1701