「クイズ王」の伊沢拓司の動画をきっかけに執筆した小川哲の最新作『君のクイズ』。初対談ではそれぞれの職業についての価値観を語り合います。AERA2022年10月24日号の記事を紹介する。

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伊沢:「あの時のあれのおかげで!」と、自分が過去に得た知識が、思ってもみないところで繋がるのがクイズの面白さの一つなんですよね。それっていろんな人が、クイズではない場面で感じているような喜びと同じものだなと。例えば、たまたま出会った人に共通の友達がいたとか、同郷の人だったとか。思いもよらぬリンクによって、自分の過去や人生が肯定された感覚を得る。ある意味、ごくごくありふれた感覚が言語化されたとも言える気がします。

小川:そう思います。ちなみに、この本の重要なアピールポイントだなと思っているのは、小説としては全然つまらないなと感じたとしても、20問ぐらいクイズが入っている。20問分の知識は最低でも得られるんです。

伊沢:どこからも学びはある、というこの本の重要なメッセージが担保されている(笑)。『君のクイズ』というタイトルの真意は、僕なりの解釈で少し言葉を補うならば「君には君のクイズ」かなと思いながら、この小説を読み終えたんです。それは素っ気なくもすべてを受け入れる肯定感を含んだものとして。じゃあ、もしも自分が「君にとってのクイズとは何か?」と問われたとしたらどう答えるかなと考えると……クイズというのは、僕にとって物事を見る目を作ってくれたと思うんですね。僕が見ている世界は、クイズを通して見た世界なんです。そういう意味で、僕にとっては「クイズは世界」なのかなと。

小川:僕の場合は、世界が小説に見えるんです。その感覚をクイズに変換して、三島や本庄に語らせている。小説の中でスポーツの比喩も出しましたが、何か一つのことに打ち込むと、世界の見え方が変わってくるのは一緒かなと思うんです。

伊沢:一緒かもしれませんね。

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