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 作家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『統合失調症の一族』(ロバート・コルカー著 柴田裕之訳、早川書房 3740円・税込み)を取り上げる。

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 ロバート・コルカー『統合失調症の一族』に登場するギャルヴィン家には、1945年から65年までに生まれた12人(男10、女2)の子どもたちがいた。どの子も厳格に育てられたが、青年となった男子10人のうち6人が統合失調症を発症した。容姿端麗で運動能力にも恵まれた息子たちが、なぜ?

 彼らが診断された当時は、<統合失調症についてほとんど何もわかっていなかった時代>だった。原因が特定できないため、治療方法はサイコセラピーと薬物療法に分かれていた。発症した息子たちも不確かな薬を投与され、入退院をくり返し、自宅に戻ればそれぞれ微妙に異なる症状を家族に晒しつづけた。患者1人だけでも大変な事態だが、それが複数となればどうなるのか、コルカーは発症しなかった子どもたちや母親の証言をもとに詳細に描く。兄たちを見て育った年下の姉妹にとって、それは自分の命さえ危ぶまれる修羅場の日々だった。

 コルカーはギャルヴィン家の惨状を描く一方で100余年におよぶ精神医療研究の概要にふれ、新たな神経学的アプローチを紹介する。同家全員が血液を提供したこの研究は、ヒトゲノム計画の達成もあって、統合失調症の原因分析に目覚ましい発展をもたらすことになる。

 精神医療史に画期をなした一家の記録は、自分たちの家族を世間に知ってもらいたいと願う姉妹の提案がきっかけだった。彼女たちはすべての資料を提供し、研究者たちと同じく、赤裸々に取材に答えた。コルカーも並外れた調査力で期待に応じ、<世間の大半が無価値に等しいと判断した人々の中に、人間性を再発見する>稀有な物語を生みだしてみせた。

週刊朝日  2022年10月28日号