AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『歌集 じゃんけんできめる』は、山添聖子さん、葵さん、聡介さんの著書。日曜日の朝日新聞に掲載される「朝日歌壇」コーナーで毎週のように選歌される山添一家。短歌ファンの密かな話題となっていた家族3人の歌をまとめた歌集が本書である。日常のありふれた、しかし振り返ってみれば貴重な出来事や季節のうつろいが三人三様の言葉で紡がれていく。短歌を通じて子どもたちの成長過程が見られるのも楽しい。山添さん一家に同書にかける思いを聞いた。
* * *
毎週日曜日の朝、朝日新聞の「朝日歌壇」のページを真っ先に開き、ある「常連さん」の名前を探す。山添聖子・葵・聡介。母の聖子さん、小6の葵さん、小3の聡介君の短歌が選ばれていると嬉しい。そんな人はきっと全国にいるはずである。このほど山添一家の歌集が出ると聞き、早速Zoom取材を申し込んだ。
「私は自分たちの短歌が本になることなんて別世界の話だと思っていたので、出版社からお話をいただいたときは自費出版のセールスかと思ってしまいました(笑)。本にまとまるのが夢でしたから、とても嬉しいです」(聖子さん)
聖子さんの実家は奈良県の桜井市。和歌を愛する人なら「『万葉集』の舞台だ!」とピンとくる地名である。
「桜井市には『万葉集』の歌碑があちこちに立っていましたし、大和三山や山の辺の道も身近にありました。小学校の広場の名前も『万葉』とか『まほろば』。すごく良い調べの言葉があちこちにあって、知らず知らずのうちに影響を受けていたかもしれません」
誰もいない金木犀の並木道マスクを外して吸い込む自由
聖子さんは父が買ってくれた「百人一首」を、子どもたちとのお風呂の中や送り迎えの車の中で楽しんできた。2人とも幼稚園の時には20首以上覚えていたという。ちなみに聡介君は幼稚園の先生と別れる時、「瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」(崇徳院)を暗唱し、「今日の僕の気持ちはこれだよ」と伝えたそうな。