想像通りのさり気ない方で、私の質問に糸や布を手にとりながら説明して下さる。
その気の遠くなるような辛抱強い仕事をいかに愛し、少しでも美しい芭蕉布を織りたいという執念が伝わってくる。一番印象に残った話は、戦時中に女子挺身隊の一員として岡山県倉敷市の紡績会社に勤めた時、社長から「沖縄の織物を残して欲しい」との一言で、沖縄に戻って芭蕉布を復元させたこと。
とんぼの翅のような沖縄の夏の民族衣裳にすっかり魅せられた。なんとか手に入れたいとお願いしたら、着尺なら一年後、帯地でも三カ月ということだったが、どうしても平良敏子さんの作品をとお願いして帰った。
一年後送られてきた布地を早速仕立てて、帯をついでに買った。
戦時下に文化を守ったことは、平良敏子という稀有なる女性のいたおかげ。いつの世も、現在のウクライナでも、戦いに出ていくのは男たちで、文化を伝承し復興し、銃後の守りを続けるのは女たちである。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年10月28日号