フィギュアスケートで世界を魅了してきた羽生結弦さん。他では見たことのない羽生さんの姿をとらえた写真と、プロ転向後のいまの思いを語った独占ロングインタビューを収録した『羽生結弦 飛躍の原動力』(AERA特別編集)を13日に発売しました。発売を記念して、このインタビューを担当した朝日新聞スポーツ部の後藤太輔記者とAERA編集長の木村恵子が「#アエライブ」で対談した内容を3回に分けてお届けします。全3回の3回目。
【記者たちも“虜”に 「フィギュア話なし」の食事会でも、つい羽生結弦の話に…】から続く
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後藤太輔(以下、後藤):どんなスポーツを取材するときもそうですが、見たままではわからない、その裏側にあったものは何なのかという、裏話みたいなものを我々記者はなるべく書きたいと思っています。でも、初めてそのスポーツを取材に行くときって何も用意がないから、不安じゃないですか。新しくフィギュア担当になった記者が羽生選手の取材に行くとなったとき、「どうしたらいいですか」という質問を受けたことがあります。でも、経験者的には、「大丈夫。何かあるから」と。
木村恵子(以下、木村):おおー!
後藤:「何か喋ってくれるし、何かやってくれるから」って。だから、記事に書くのは難しくない。もちろん、どれにフォーカスするかというのは難しいところですが、羽生さんの場合「何も書くことがないということはないから大丈夫」と言える選手です。
先日も、短時間のインタビューで緊張していた記者に声をかけてもらったんですが、「大丈夫です。喋りますから」と返したことがあります。実際、5分10分くらいのインタビューでもちゃんとした記事を書ける話をしてくれる。
木村:これまでの集大成のような質問になりますが、「後藤さんから見て、羽生さんの『ここがすごい』ではなく、『ここが好き』というところは」。どうでしょうか?
後藤:今となってはあまり見られないかもしれませんが、(羽生さんは)すごい負けず嫌いなんです。みなさんご存知だと思うんですけど、たまに言葉や喋り方にその負けん気が見えるときがあるんですよね。「ちくしょう」「このやろう」みたいな。ああいうのがね、好きなんですよね。
いつも恭しくて、明るく笑ってくれて、優しいというのが、今の羽生さんの大部分を占めていますが、たまにその負けん気の強さが垣間見えるんですよ。やっぱり、いいですよね。人間らしいというか、人間だものというか。そりゃ悔しいことがあるし、腹が立つこと、うまくいかないことがある。スポーツってそういうもので、トラブルが起きたり、思い通りにいかないこともある。
ラグビーの名将で大西鐵之祐さんという方がいるんですが、その方が「うまくいかない状況でも自分をコントロールして、ひどい反則や相手を貶めることをしないというのを養うのにスポーツはいい」といったことを話していたことがあります。トラブルで悔しくて泣いたり、怒ったりというのがありながらも、そこでどう自分を成長させていくのか。羽生さんに限らず、そのときに垣間見える人間らしい感情の一面が僕はすごく好きだし、そういうのも含めて、スポーツの面白さだなと思っています。