五輪2連覇、前人未踏の4回転半ジャンプへの挑戦、そしてプロ転向。さまざまな感動を世界中にもたらした羽生結弦さん。その羽生さんが、プロ転向後のいまの思いを語ったロングインタビューを収録した『羽生結弦 飛躍の原動力』(AERA特別編集)を13日に発売しました。
これまでフィギュアスケートを極めてきた羽生さんの“原動力”とはなんだったのか、あきらめない心はどう生まれたのか――。発売を記念して、朝日新聞スポーツ部の後藤太輔記者とAERA編集長の木村恵子が「#アエライブ」で対談した内容を3回に分けてお届けします。全3回の1回目。
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木村恵子(以下、木村):今日、いよいよ『羽生結弦 飛躍の原動力』が発売になりました。AERA特別編集でお届けしている、プレミアム保存版です。羽生さんのインタビューを担当した後藤太輔さんに来ていただきました。
後藤太輔(以下、後藤):後藤です。よろしくお願いいたします。
木村:羽生さんの取材をずっとされているんですよね。
後藤:2012年からですね。
木村:ちょうど今年で10年ですね。今日は、後藤さんのお話をたっぷりお聞きしたいと思います。ファンの方からも、たくさんの質問がきています。「プロ転向後に羽生さんにインタビューをして、変わらないと思ったこと、変わったと思うところを教えてください」とのことですが、いかがですか?
後藤:羽生さんはいつもすごく楽しそうに喋ってくれて、笑いかけてくれるし、すべての質問に一生懸命に答えてくれる方です。昔からそうですが、真剣なだけでなく、楽しそうに答えてくれるので、こちらとしては取材をするのが楽しみでしょうがない。「何を言ってくれるのかな」というのは今も変わりません。
木村:変わったところは?
後藤:そんなにはありませんが、今回の撮影で衣装に着替えるときに、「これだったら滑れそうだ」とか「ショーで使えそうだ」とか言っていましたよね。
木村:(撮影も)ショーのイマジネーションになっている。
後藤:そうそう。プロになって、自分でショーを作るという立場になった。以前もAERAの表紙撮影のときにインタビューをさせてもらいましたけど、過去にはそういった視点はそんなになかったような気がしますね。
木村:プロになって、自分でプロデュースするという意識を感じた、と。次の質問。「羽生さんには、彼独特の言葉を感じられます。今回はどこにそれを感じましたか」。
後藤:いっぱいあるんですけど、もちろん独特の考えを持っているし、加えて、その独特の考えを言葉に置き換える力というのがやっぱりすごくて。僕ら記者は言葉を使うプロですけれど、「いつも使われる典型の言葉」を使いがちですよね。でも、彼は本当に自分の言葉を持っているので、すべての質問にありきたりな感じの返答はしないんです。
たとえば、都築章一郎先生と練習をしていたときに「何でも自由にやればいい」というプレゼンテーションがあったんですね。そのことを振り返って、「自由ではなく与えられたほうが楽なときってありますよね」という話をしたのですが、羽生さんは「正解のないところにいくのが好きだ」「用意された正解ではなく、自分がこうやりたいということをしたい」という言い方をしたんです。
昔から羽生さんは、プルシェンコさんやヤグディンさんなど好きなスケーターがいるとおっしゃっていましたが、本人は「その選手みたいになりたい」というイメージではないということも言っていて。そういった選手をリスペクトしつつも、その先に「他の誰でもない羽生結弦になるんだ」という思いをずっと持っている。憧れの選手がいるだけでなく、さらに理想の自分を描いているんです。僕も話を聞いていて、「ああそういう風に考えればいいんだ」「そういう風に仕事をしよう」って思ったり(笑)