恐怖100%の存在だった貞子が人々に親しまれつつある現象については「ホラーキャラクターは、作品のシリーズ化が進むにつれ愛される傾向があります」と解説する。
「『13日の金曜日』のジェイソンも『エルム街の悪夢』のフレディも、『あのマスクの人ね、火傷の人ね』と、どこかクスリと笑える存在になっている。行動パターンがわかると水戸黄門的な安心感が生まれるし、バックボーンを知ると愛着も湧くものです」
昨今の貞子がまとうコメディーの雰囲気が如実に表れているのが、10月28日に公開されるシリーズ最新作「貞子DX」だ。恐ろしいシーンもあるのだが、どこか笑いを誘う愉快なムードが通奏低音になっている。
メガホンをとった木村ひさし監督は、映画のコンセプトについて「今までよりもポップな感じで」とオーダーを受けたと明かす。
「僕、1作目の『リング』を映画館で見ているんですけど、こりゃ家で一人で見るのはだめだと思うくらい恐ろしかった。でも今作は驚かす系の怖さに寄せて、お客さんが恐怖を引きずったまま映画館を出ないように作りました。Twitterで、『怖いのは苦手だから見ない』っていうメッセージももらうんですよね。僕としてはそんなこと言わないで見てって言いたいんだけど、全く怖くないわけではないから、『まあでも面白いと思うよ』みたいな(笑)」
初めて「リング」シリーズに挑んだ木村監督は、映画を撮るなかで貞子に対する眼差しが変わったそうだ。
「怖いっていうよりもちょっと悲しい感じがしました。出演した女性が、できあがった作品を見て泣いちゃったんですよ。『貞子は呪った相手を頑張って追いつめても、その人が“あること”をした瞬間、自分から井戸の底に飛び込んでしまう。何度も井戸から這い上がっては落ち、這い上がっては落ちを繰り返してるのが切なかった』と言ってました。実際に襲われるのは嫌ですけど、自分の近くにさえいなければ、貞子ってそんなに悪いやつじゃないんじゃないかなと思います」