渋谷のスクランブル交差点に大量発生した貞子たち。逃げる者、苦笑いして遠巻きに見つめる者、恐る恐る近づいてくる者……。周囲の反応はまちまち。KADOKAWA提供
渋谷のスクランブル交差点に大量発生した貞子たち。逃げる者、苦笑いして遠巻きに見つめる者、恐る恐る近づいてくる者……。周囲の反応はまちまち。KADOKAWA提供
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 長い黒髪を前に垂らした女がテレビからはい出てきて、見る者を呪い殺す。1998年公開のホラー映画「リング」で、人々を恐怖のどん底にたたき落とした貞子。シリーズを重ねるたびにおぞましさは増すばかり……のはずが、どうも様子がおかしい。今年10月公開の新作を含め、貞子がコメディエンヌの顔を覗かせているのだ。

【写真】サンリオの「ハローキティ」とコラボした、メルヘンな貞子

 異変の始まりは、2012年公開の「貞子3D」だった。制作陣の「シンプルに、3Dで貞子が飛び出したら怖いよね?」というアイデアから生まれた本作。スマホや街頭ビジョンなど画面という画面から襲ってくる貞子の無双っぷりや、石原さとみ演じる主人公が鉄パイプ片手に戦うアクションシーンは話題を呼んだ。

 だがそれ以上に世間をざわつかせたのが、宣伝活動だ。50人以上の貞子が東京・渋谷のスクランブル交差点に突如現れて行進した「渋谷ジャック」や、人気キャラクター「ハローキティ」とのコラボ。果てはプロ野球の始球式まで参戦したが、一球投げると力尽きてその場に倒れた。

 自由の翼を手に入れた貞子の飛躍は、その後も止まらない。16年には、「リング」とともにジャパニーズホラーの双璧を成す「呪怨」とタッグを組み、映画「貞子vs伽椰子」で化け物同士の頂上決戦が実現。今年3月5日(貞子の日、ちなみに仏滅)には、YouTubeチャンネル「貞子の井戸暮らし」を開設した。工場でバイトデビューをしたり、エクササイズで脂肪を“成仏”させたり、貞子の日常をゆるーく紹介している。

「貞子3D」以降のシリーズの制作を担うのは、KADOKAWA文芸・映像事業局の今安玲子プロデューサー。これまでで最も印象深い取り組みについて尋ねると、感慨深げに「やはり始球式ですね」と振り返った。

「やるべきかどうかは悩みました。でもまあ、貞子を連れて(東京ドームがある)水道橋に行ってみるかと(笑)。式の後、みんなで中華屋に行って、お店のテレビで夜のニュース番組をチェックしてたんですけど、エンタメコーナーに取り上げてもらえていなくて。『まあ、芸能人じゃないし取り上げないよね』ってぶつぶつ言ってたら、その後のスポーツコーナーに出たんですよ。そこからネット上にアップされた始球式動画の再生回数がすごく伸びて。批判はなく、むしろ貞子を怖がっていた人との溝を埋められた手応えがありました。それで、堂々とキャラクターとしての貞子を売っていく方針が固まったんです」

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キャラが一人歩き