同時期にアニメ雑誌が創刊され、一部の声優はアイドル的人気を集めるなど、「声優」という職業にもようやくスポットライトが当たる時代が到来した。一方で、声優に求められる演技やパフォーマンスの質も、徐々に変わってきたのだという。
「昔の日本アニメはセル画の枚数も少なく、表情の乏しさを補うために、抑揚をつけて誇張した演技が要求されました。それが今やフルCGで作画する時代になって、より自然な演技のほうが作品に合うようになってきた。僕は劇団育ちなので、どうしても誇張した演技が染み付いている。『俺の芝居、古くない?』って時々周りに聞くんです。時代が求めるものが変化していくから、僕自身、今も修業中の気分です」
■変化しながらも継承される名作
低音で張りのある声が特徴だった内海さんも早くから頭角を現し、長年、声優界の第一線で活躍。自ら事務所を設立し、後進の育成にも努めた。柴田さんは、84年のアニメ「北斗の拳」で内海さんが演じたラオウが印象的だったと語る。
「『Dr.スランプ』の千兵衛さんのときはまだ千兵衛さんを“演じている”という感じでしたが、『北斗の拳』で久しぶりに共演したときのラオウは、その気迫たるやもはや“ケン坊”が演じるのではなくラオウそのもの。おおすごい、こいつ完全にラオウの中に入っているとビックリしました」
声優界の黎明期を知る存在は徐々に少なくなっている。今年も「ルパン三世」の次元大介役で知られる小林清志さん、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの冬月コウゾウ役の清川元夢さんなど、複数のベテランが世を去った。長寿作品では声優の交代も珍しくなくなっている。柴田さんは言う。
「作画も声も、時代に合ったものに変化していく。ものまねではなくて、ちゃんと今の作画に合う声、演技をみなさんしてくれて名作は受け継がれてきていると思います」
この先、新たなラオウ像も生み出されることだろうが、レジェンドたちが作り上げた芯の部分はきっと変わらず、世代を超えて受け継がれていく。(本誌・太田サトル)
※週刊朝日 2022年10月7日号