そんな内海さんを「ケン坊」と呼び可愛がってきた声優が、柴田秀勝さん(85)。60年以上のキャリアを持ち、今なお現役。「タイガーマスク」のミスターXや「マジンガーZ」のあしゅら男爵など、また特撮作品で何度も悪のボス格を演じた“レジェンド”だ。二人が出会ったのは1960年のことだ。
「『やたら声のいい男が九州から出てきたから、面倒みてやってもらえないか』と知人に言われたんです。ケン坊はボストンバッグ一つだけ持って現れてね。住む所もお金も仕事も全く考えていないと言うから呆れました」
内海さんは、柴田さんが現在も経営する新宿ゴールデン街の会員制バーに住み込みで働きながら、映画の吹き替えや劇団の舞台など、俳優のキャリアをスタートさせた。
「当時は、『声優』という言葉すら普及していませんでした」(柴田さん)
声優専門のプロダクションもあまりなく、大山のぶ代、野沢雅子といった、後に“レジェンド”と呼ばれるようになる声優の多くが俳優・役者としてキャリアを始めた。
「当時は声の仕事はどこか裏方のような存在で、劇団に所属している役者のアルバイト感覚の面もあった。アニメ作品ではキャラクターのイメージを崩してはいけないからと、顔出しもあまりしなかった時代です。大きなスタジオにBGMを担当する演奏者、靴音や風の音を担当する音響効果の人などと一緒に入って大勢で収録していました」(同)
柴田さんの元に転がり込んだ内海さんも、役者を目指して上京してきた若者の一人だった。
「収入が必要だろうと、キャバレーの照明の仕事を紹介して。そうこうするうちに外国映画の吹き替え番組がテレビで始まるというので、お前、ちょっとやってみろと」
状況が一変したのは、74年に「宇宙戦艦ヤマト」のテレビシリーズが大ヒットしたときだ。
「『ヤマト』がブームになって、子供向けと思われていたアニメに、大人も楽しめるような物語がどんどん作られるようになりました」