今度は彼女のためにしっかり、祈りました。でも、不安な気持ちで帰国しました。成田空港では総師長が出迎えてくれました。「お帰りなさい」と言ってさっさと歩き出します。これはひょっとしたらと、さらなる不安が胸をよぎりました。その時、総師長が振り向いて「あっ、○○さんなら大丈夫よ。すごく元気よ」と言ったのです。うれしかったですね。病院に帰ると、彼女の病室に直行。彼女は血色のいい顔をしてベッドに座っていました。「よかった。ロンドンからあなたにパワーを送ったんですよ」と言うと、「本当ですか。ありがとうございます」と満面の笑みです。「それはいつ頃ですか」と聞かれたので、「水曜日の早朝4時ぐらいです」と答えると、彼女は驚いて「私の気分がよくなったのは、その頃からですよ」と言うではありませんか。
こういう話は信じられない人がいると思います。でも、私は祈りが届いたと信じています。いや、祈りの効果を信じるかどうかにかかわらず、医師が患者さんのために祈るのは、とても大事なことだと思っています。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年10月7日号